THE CLINICでは、他院のドクターを対象にした脂肪吸引、および脂肪注入(コンデンスリッチファット法)に関する技術指導セミナーを2~3ヵ月に一度のペースで開催。これまでに、延べ200人以上のドクターの指導に当たってきました。
最近セミナーに参加される先生方の傾向として、形成外科の先生が増えてきていると言えます。また、乳腺外科の先生の参加も目立つようになってきました。興味がある施術は何かと尋ねると、みなさま一様に「脂肪注入による豊胸」や「乳房再建時の脂肪の活用法」とおっしゃいます。
そこで先日のセミナー(2016年12月1日、THE CLINIC東京院で開催)では、脂肪注入の基本手技や脂肪注入時に考慮すべき合併症(しこり、脂肪壊死、脂肪吸引の失敗)、さらに、これらが生じる原因と、それを回避するための方法を中心にお話ししました。
また、顔面の再建(形成)に興味をお持ちの先生もいらっしゃったので、顔への脂肪注入のデモンストレーション(ライブサージェリー)も行いました。
今回は、その時にいただいたご質問と、それに対する私の考えをわかりやすくまとめてみました。これらは、施術をご検討中のみなさまにとっても有益な情報だと思いますので、是非ご一読ください。


≪モニター様 背景≫
43歳女性
身長・体重/154.5cm・43.65kg(BMI:18.28)
主訴
授乳後胸が萎んで自信がなくなった為、豊胸希望。お顔の若返りもしたい。
手術内容
胸→コンデンスリッチ豊胸、
顔→3Dセルリフト(中顔面の若返り)
バストサイズ
アンダーバスト:73cm、
トップバスト   :78.5cm(ブラカップA~B)
乳頭下縁~乳房下縁:R4.0cm L 4.0cm
分娩経験
有、3回
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≪参加いただいた先生方≫
・アイESTクリニック 稲木 勝英 先生
・ 山梨県立中央病院 形成外科 小林 公一 先生
・ 栃木県立がんセンター 形成外科 石井 直弘 先生
・ 東京医科大学八王子医療センター形成外科 吉澤 直樹 先生
・ 藤聖会 八尾総合病院乳腺外科/ブレストケアセンター 江嵐 充治 先生
・ 藤聖会 八尾総合病院形成外科 古川 えりか 先生
・ 浜松医科大学医学部付属病院 形成外科 水上 高秀 先生
・ 近畿大学医学部奈良病院乳腺・内分泌外科 綿谷 正弘 先生
・ JCHO 滋賀病院 乳腺外科 梅田 朋子 先生
(順不同)
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脂肪注入手術のよくある質問①
脂肪吸引部位はどこが適していますか?

最も良い場所は太ももの内側、下腹部、腰になります1-2)。できればこの場所のうち、少なくとも一か所を含む部位を吸引箇所に選びたいです。ただし、脂肪吸引手術は脂肪を集めるだけではいけません。せっかくなら、脂肪吸引がデメリットではなく、メリットになる手術をしたいものです。

脂肪吸引の仕上がりを左右するのは、デザイン力

美しく仕上げるため、手術前のカウンセリングでは、ゲストにとって最もメリットの高いデザインを選び、提案します。施術後、吸引部位のたるみや凸凹のトラブルを最小限にするにはどうすべきかといった視点でデザインを構成するのです。例えば、ヒップや臀部の下(バナナロール)を取ってほしいとおっしゃるゲストは多いのですが、言われるまま、考えなくその脂肪を取ると、ヒップが垂れさがってしまいます。こうした事態を回避するには、ゲストの筋肉や骨格の形と、理想の体型を頭に入れ、すべてを考慮したベストなデザインを選択しなければなりません。そうでないと、例え胸は大きくなっても身体を他人に見せられないといった状態に陥り、何のための豊胸(手術)かがわからなくなってしまいます。カウンセリングは、このような失敗を防ぐための“作戦会議”。ここでのデザイン作業をおざなりにしてはいけません。

今回のモニター様に行ったデザイン

今回の施術では、脂肪幹細胞の多い太腿内側と腰から脂肪を採取しました。その際、ウエストを細く見せ、脚を細く長く見せるデザインを意識しています。BMIが18代でとても痩せていらっしゃいますが、VASERを上手に併用し(ここでは、VASERの活用方法は割愛します)できるだけ多くの脂肪(と脂肪幹細胞)の採取を狙います。
写真は実際のデザインです。結果的には805㏄の純脂肪(チュメセント液を省いた状態)を採取し、そこから500ccのコンデンスリッチファットが作成できました。

■デザイン後の様子
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脂肪注入手術のよくある質問②
脂肪はどのように加工すべきですか?

コンデンスリッチファット、セリューション(脂肪幹細胞添加:CAL=Cell assisted lipotransfer)、ピュアグラフトのうち、どの脂肪加工技術を用いるべきかという質問です。答えは「ゲストによって変わる」ですが、私はほとんどの場合、コンデンスリッチファットを用いています。以下にその理由を示します。

脂肪注入の際、セリューションを行わない理由3-5)

セリューション(脂肪幹細胞添加:CAL)が魅力的な治療であることは間違いありませんが、脂肪幹細胞(もしくはSVF)の抽出には注入脂肪以外の脂肪を採取する必要があります。その点、日本人に多い痩せ型のタイプでは余分な脂肪採取が困難なケースが少なくありません。
一方CRF(コンデンスリッチ豊胸)の利点肪は、質の悪い脂肪を加重遠心分離で破壊、オイル化して排除することで、脂肪幹細胞の比率を高められる点です。例え痩せ型のゲストでも、無理なく対応できるのです。

脂肪注入の際、ピュアグラフトを行わない理由

ピュアグラフトは当院で実験もしましたが、水分を含みすぎており、単位体積当たりの健全な脂肪や脂肪幹細胞の数が少ないので用いていません。

脂肪注入手術のよくある質問③
脂肪注入でしこりを作らない方法、できるだけ定着させる方法は?

ポイントは大きく2つ。
1つは、細かく、各層に(皮下、乳腺下、大胸筋内、大胸筋下に万遍なく)細く長く(2.4ミリヌードルインジェクション)注入すること。
2つ目は、決して脂肪を多く入れ過ぎないことです。

脂肪注入では、脂肪は細かく各層に、かつ細く長く注入する

コールマン先生が2006年に発表した“コールマンテクニック”を基本とすることです6)。つまり、できるだけ細かく注入する必要があるということになります。

先日の美容外科学会でも発表しましたが、注入した脂肪は外側から0.3㎜位がそのまま生き残り、最高1.2 ㎜までが再生可能、それより内部は壊死し、しこりになるか、全く生き残らず、消えて無くなるという医学的事実が分かっています(図)。
ですから、注入脂肪の外側から1.2㎜しか生き残らない事実を踏まえ、直径2.4㎜までの細い麺状注入(2.4ミリ・ヌードルインジェクション)を徹底することが大切です。
勘違いしてはいけないのが、直径2.4ミリ以下の注入管(カニューレ)で注入したからといって直径2.4ミリ以下の注入ができるわけではないということです。あくまで注入された脂肪を直径2.4ミリ以下にする技術が必要になります。
また脂肪の注入箇所も、皮下、乳腺下、大胸筋内、大胸筋下と万遍なくなされなくてはいけません。

■2015年乳房オンコプラスティック学会スライド (大橋発表)
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脂肪は決して多く入れ過ぎない

患者さんの中には、多く注入すればそれだけ胸が大きくなると考える方がいらっしゃいます。一部の美容クリニックのWEB広告でも、そのようにとらえられかねない表現が公然となされていますが、事実とは異なります。
その方にとっての適正量以上に脂肪を注入しても、それらの多くは生き残らず、逆に壊死に陥り、結果的に胸が小さくなるか、しこりとして残ってしまうだけなのです7)。

■脂肪の注入量と、生存率の関係

脂肪注入豊胸の最新情報

※ある点を境に、劇的に脂肪の定着が悪くなる事=生き残らないで“しこり”になる事を意味します。

■実際の脂肪注入の様子
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脂肪注入手術のよくある質問④
全く胸が無い(フラットな)方、漏斗胸の方など、皮膚の伸びが悪い場合はどういった工夫が必要か?

皮膚が伸びる方は、注入脂肪の定着率が良く、伸びにくい方は定着率が悪い傾向があります。逆に、授乳後や乳房インプラント(シリコンバッグ)が入っている場合は皮膚が伸展されているため、定着が良い傾向にあります。
ここでは、皮膚の伸びが得られない場合にはどうすべきかという質問にお答えします。

BRAVAを使う

乳房再建でも使うBRAVA(と呼ばれる皮膚を陰圧で伸ばす方法)を併用すれば、良い結果が得られます。
乳頭から乳房下縁の距離が5.0センチ以下の場合、特にBRAVAは有効であったという、医学的、統計学的臨床学的データです8-9)。

■第104回日本美容外科学会総会発表スライドの一部(大橋発表)
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BRAVAの入手が難しい場合はどうする?

BRAVAの効果が確実であることはすでに分かっていますが、今、日本では手に入らなくなりつつあります(メーカーからの供給が少なくなってきています)。またBRAVAは、術前後に各2週間程度の着用をお願いしているのですが、ゲストによってはそれが難しいこともあります。
ですから、最近はリゴトミー(経皮的アポニューロトミーと脂肪注入)、を利用する場合もあります。リゴトミーとは、針を使って、組織の癒着を剥離することで、乳房内に脂肪の注入スペースを確保する施術です。12月1日のモニター様は乳頭から乳房下縁の距離が4.0センチと短かったため、術中に2Dリゴトミーをしました。この素晴らしいテクニック=リゴトミー技術は、乳房再建でとても話題になっています10-11)。

■3Dリゴトミー(針にて組織を剥離して、切開線無しで組織を拡張する)の説明/Plast. Reconst. Surg. 133:550, 2014 より引用
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脂肪注入手術のよくある質問④
アンチエイジングのための顔への脂肪注入のポイントは?

まず、脂肪の使い分けが必要です。脂肪は加工(処理)の仕方で、主な効果が違ってきます。
単純に言うと、CRFはボリューム形成(=頬の高さ、額を丸く、頬のコケ)、マイクロCRFは肌質改善(医学的に言うと、皮膚の肥沃化)に有用です。
これらを使い分け、若い時の立体感と肌質を取り戻していきます。
12月1日のモニター様とは異なりますが、先日私が担当したフルフェイスモニター様を例としてお示しします。この方に対しては、以下の施術を併用しました。

①頬の高さをCRF注入と糸で作る(頬のオージーカーブ作成)→ゴルゴラインが減り、中顔面が若々しく見えます。
②額をCRFで丸くする
③目の上下にマイクロCRFで注入して肌質を改善
④目の上はMAFTGUNと呼ばれる1/90cc ~ 1/240ccでCRFを注入できる機械で細かく注入。(コールマンテクニックの応用)
⑤頬のたるみに関してシルエットソフトを用い引き上げ

■術前のデザイン
ステムリッチファット注入

■術前(左)と、術後3ヵ月(右)の比較
ステムリッチファット注入

■施術後の記念撮影
ステムリッチファット注入

まとめ

ドクターを対象にしたセミナーでは、脂肪吸引(採取)、脂肪注入に関する基礎的なことから、実際のテクニックまで、幅広く伝えています。
今回、乳腺外科の先生から「乳がんを摘出する際も、皮下組織をできるだけ残すなどの配慮が必要なことが、今回のセミナーに参加し、実際に手術を見ることで初めて分かりました」と、とても前向きな、嬉しい意見をもらえたことが印象的でした
また、その他の参加ドクターとも活発なディスカッションができ、有意義なセミナーでした。
参加して下さった先生方、セミナーのモニターになって下さった方、そしてセミナーに関わってくれたスタッフに感謝です。

文献

  • 1)Improving fat transfer viability : The role of aging, body mass index, and harvest site. Palmyra J. Geissler; Rod J. Rohrich. Plast Reconstr Surg. 2014;134(2):227-232
  • 2)Sources of processed lipoaspirate cells: influence of donor site on cell concentration. Padoin AV, Braga-Silva J, Martins P. Plast Reconstr Surg. 2008 Aug;122(2):614-8.
  • 3)大橋昌敬, 山川雅之.LiPOMAX-SCを用い遠心分離した自家脂肪を用いる豊胸術(やせ形の体型にも十分施術可能な脂肪注入による豊胸) 日美外会誌 2011; 第47巻:111-118
  • 4)大橋昌敬, 山川雅之. 加重遠心分離した自家脂肪を用いた豊胸術(コンデンスリッチ豊胸)642例の短期成績:特に注入術後のバストサイズの変化に関して.日美外会誌 2013;第49巻:p148-156
  • 5)Yoshimura K, et al. Adipose-derived stem/progenitor cells: roles in adipose tissue remodeling and potential use for soft tissue augmentation. Regen Med. 2009;4 :265-273.
  • 6)Coleman S.R. Structural Fat Grafting: More Than a Permanent Filler. Plast. Reconstr. Surg. 2006;118(Suppl.):108S.
  • 7)Roger K.Khouri, Thomas M. Biggs, et. Al. Megavolume Autologous Fat Transfer: Part II. Practice and Techniques. Plast. Reconst. Surg. 133:550, 2014
  • 8)Khouri RK, Rigotti G, Khouri RK Jr, et al. Tissue-engineered breast reconstruction with Brava-assisted fat grafting: a 7-year, 488-patient, multicenter experience. Plast Reconstr Surg. 2015 Mar;135(3):643-58.
  • 9) 大橋昌敬、山川雅之ほか、BRAVA(external pre-expansion of the breast device)とコンデンスリッチ豊胸の併用療法に関する短期成績. 日本美容外科学会雑誌 Volume 51 No.2, Dec. 2015, P 145-150
  • 文献
  • 10)Gino Rigotti., Roger K. Khouri. Percutaneous Aponeurotomy and Lipofilling: A Regenerative Alternative to Flap Reconstruction? Plast. Reconstr. Surg. 132:1280, 2013.
  • 11)Roger K.Khouri. Thomas M. Biggs. Megavolume Autologous Fat Transfer: Part II. Practice and Techniques  Plast. Reconst. Surg. 133:550, 2014